成年後見開始の申立て
【事例1】
父親が亡くなって、母親と子どもが相続人となったが、母親が脳梗塞による血管性認知症となっている。遺産分割協議のため及び母親の財産の管理のために、長女が成年後見人となった事例。
当事者
申し立てまでの経緯
母親は数年前から脳梗塞による血管性認知症のため、判断能力、記憶力、計算能力などが著しく低下してしまっています。現在では、日常生活の意思決定や、家族との意思疎通も困難な状況で、老人保健施設に入所中です。
昨年、父親が亡くなりましたが、不動産や貯金などの財産は、父親名義のままとなっています。
母親の現在の状態では、遺産分割の協議はできず、また今後、老人保健施設や特別養護老人ホームなどの介護施設との契約も、母親自身ではできないため、成年後見の申し立てをすることになりました。
申し立てから審判まで
申し立ては長男がおこない、成年後見人の候補者には、母親の入所している施設の近郊に住んでいる長女がなることにしました。
家庭裁判所による調査、主治医による精神鑑定の後、特に問題がなかったので、約4ヶ月後、長女が成年後見人に選任されました。
成年後見人の仕事の内容
1.入所施設において看護や介護が適切に行われているか、十分に配慮を行います。必要があれば、他の施設や介護サービス提供業者との契約を行います。成年後見人の仕事には、直接、看護や介護をすることは含まれません(子として母親の世話をすることとは、別の話です)。
2.相続した不動産の持分、預貯金、年金の管理をします。金融機関には、成年 後見人の届け出が必要です。
3.施設費用の支払い、その他諸費用の支払いなどを行います。
その他
申し立てのきっかけとなった遺産分割協議は、長女が成年後見人となったため、母親のために特別代理人を選任してもらい、行いました。
【事例2】
母親が死亡し、父親が生命保険金の受取人となったが、父親は、数年前から病気のためほぼ植物状態となり、入院生活を送っている。父親の成年後見人に息子が就任し、成年後見監督人にリーガルサポートさっぽろの会員が就任して、生命保険金受け取りをはじめとした財産管理を行っている事例。
当事者
- 父親 45歳
- 長男 21歳
- 次男 20歳
- リーガルサポートさっぽろ会員 34歳
申し立てまでの経緯
父親は数年前に病気で倒れ、若くしてほぼ植物状態となってしまいました。母親が父親の介護を続けてきましたが、その母親が死亡し、息子2人が残されました。母親のかけていた生命保険の死亡保険金の受取人は父親でしたが、父親が手続をすることができないため、後見開始申立を行うこととなりました。
申し立てから審判まで
申し立ては長男が行い、成年後見人候補者としても長男がなることとしました。父親はほぼ植物状態のため、精神鑑定せずに後見開始の審判がなされました。長男が成年後見人に就任しましたが、まだ21歳と若いこともあり、家庭裁判所の職権で成年後見監督人選任の手続がおこされ、リーガルサポートさっぽろの会員が成年後見監督人に就任しました。
成年後見人の仕事の内容
- 成年後見人となった長男は、父親の法定代理人として、生命保険金受け取りの手続を行いました。
- 不動産の権利書、預貯金や保険証券の管理、年金の管理も成年後見人が行っています。
- 定期的に成年後見監督人に後見事務の報告をし、家庭裁判所に提出する後見事務報告書の作成も行っています。
成年後見監督人の仕事の内容
- 成年後見人の後見業務を定期的に確認し、監督するのが主な業務です。
- 生命保険金の受け取りや、金融機関への後見開始の届出などの重要な手続については、成年後見人とともに手続を行いました。
その他
母親の相続財産を、相続人3人で遺産分割することとなりましたが、父親(成年被後見人)と長男(成年後見人)との間が利益相反となるため、成年後見監督人が父親の代理人となり、遺産分割協議を行いました。
【事例3】
長女の成年後見人をしていた母親が、抑鬱状態となり、母親について補助人を選任し、長女について複数後見とした事例。
当事者
- 母親 80歳
- 長女 55歳
- リーガルサポート会員 40歳
申し立てまでの経緯
本人(母親)は7年前、精神障がいのため精神科病院に入院している長女の成年後見人に就任しました。しかし、2年くらい前から本人が抑鬱状態となり、長女との面会に行く以外は、ほとんど外出しないようになってしまいました。
入院費等の支払いに困った精神科病院のソーシャルワーカーがリーガルサポートに相談し、本人について補助の申し立てをすることにしました。また、長女については今後も成年後見人として身上監護面の見守りをしたいという本人の希望があったので、成年後見人をもう一人選任してもらう申し立てをし、複数後見にすることとなりました。
申し立てから審判まで
申し立ては本人自らが行い、相談にのっていたリーガルサポートの会員が本人の補助人候補者および長女の成年後見人候補者となりました。補助人の代理権は、預貯金の管理の他に、札幌市外にある本人所有の土地の管理・処分をする権限を与えてもらうよう申し立てをしました。
補助人の仕事の内容
- 預貯金・土地等の財産管理、税金・公共料金等の支払い手続きをします。
- 必要があれば施設入所契約、医療契約をします。
成年後見人の仕事の内容
リーガルサポート会員 | 預貯金の管理、入院費用の支払い等の財産管理事務をします。 |
本人 | 長女と定期的に会って様子を確認し、心身の変化を見守っています。 |
その他
このケースでは、長女について複数後見を選択しています。本人は主に身上監護事務を、リーガルサポート会員は主に財産管理事務を行い、二人で協力して長女の生活をサポートしています。
保佐の申立て
【事例1】
夫の死後、残された妻がうつ病を患い入院加療となった。治療の結果小康状態となり、介護つきであるが通常の生活が可能となり退院した。これまで、息子夫婦が面倒を見てきたが、仕事の関係上遠隔地に転居することになり、リーガルサポート会員に後見事務等の支援を依頼した事例。
当事者
- 本人 65歳
- 長男 46歳
- リーガルサポート会員 45歳
申し立てまでの経緯
本人は、独居生活は困難なので、グループホームに入居しています。日常会話はスムーズで、食事、排泄、身支度等は自分でできますが、炊事、生活事務、財産管理等は困難な状況にあります。
申し立てから審判まで
申し立ては息子が行い、申し立て後2週間で転居予定だったので、申立人調査は上申書を提出し、特別に早期にしてもらいました。その後、鑑定がなされ4ヵ月後にリーガルサポート会員が保佐人に選任されました。本人の能力としては、炊事、衣食生活管理、財産管理等はできないが、日常会話、食事、排泄、身支度等は問題がなく保佐類型と考えられ、裁判所もそのように判断しました。
保佐人の仕事の内容
- 定期的に(月に1度のペースで)グループホームを尋ね、本人の様子を確認しています。グループホームの介護が適切に行われているか見守り、また本人と必ず話し合いをして相談相手となっています。
- 財産管理としては、自宅不動産管理、火災保険等の損害保険契約締結・管理、税金・保険の申告・納付手続き、介護認定更新、介護保険料払込手続き、施設費用支払い、その他諸費用支払い、預貯金管理、郵便物管理等を行っています。
- 本人は家族が身近にいないので、月に一度保佐人が訪問するのを楽しみにしています。病気のため、被害妄想症状が出ることもありますが、薬の定期的服用とグループホームのきめ細かな介護により、安全に生活しています。
その他
審判確定前に実際の支援が必要となったため、任意の財産管理委任契約を結び、保佐人が選任されるまでの対応をしました。
補助の申立て
【事例1】
軽度の知的障害を持つ人が、年金や賃金を一人で管理することが難しく、サラ金などからの借金を重ねてしまった。今後の不安もあるので、補助人をつけて、一定の行為につき補助人の同意が必要である、とした事例。
当事者
申し立てまでの経緯
Aさんは、軽度の知的障害を持つ方で、養護学校を卒業後、母親や兄弟と一緒に暮らしながら、地域の小規模作業所に通って働いていました。収入は、年金と作業所の手当を含めて月8万円くらいです。親元で生活していますので、生活費としては十分な金額です。
しかしAさんは、金銭の管理をすることが不得手で、入ったお金はすぐ使ってしまって、足りなくなったらサラ金から借りるということを重ね、気がついたら数百万円の借金になっていました。困った母親が、作業所の指導員に相談し、補助の申し立てをすることとなりました。
申し立てから審判まで
Aさんは、家族と同居していることもあり、日常生活のほとんどを援助なしに行うことができます。金銭の管理だけが不安ですが、誰かが代わって管理するという必要性もないようです。これ以上借金を増やさないようにするため、高額の買い物、借金をすることについて、補助人の同意を必要とする、という補助の申し立てをすることにしました。
申し立てはAさん本人がおこない、補助人候補者には、作業所の指導員になってもらうこととしました。
家庭裁判所によって、Aさんの意向の確認、家族や補助人候補者の調査がなされ、約2ヶ月に補助開始が決まりました。
補助人の仕事の内容
- Aさんの日常生活に配慮し、必要があればお金の使い方などを指導します。
- もし、補助人の同意を得ないで借金をしてしまって、返済できないような状況になったら、借金(金銭消費貸借)を取り消します。
その他
このケースでは、補助人には一定の行為の同意権だけが与えられていて、金銭管理に関する代理権はありません。施設に入所している方の場合、その施設の職員が代理権を持った補助人等になるのは、本人の保護の上からは望ましくないのではとの指摘がなされています。